株式会社スピンラボ:生産性の向上には“聞く営業”が重要に

今までの教育内容は一般教養講座的な要素が多かったと思われる。

雑誌掲載記事

第7回「生産性の向上には“聞く営業”が重要に」

企業のトップの方に経営戦略か経営方針をお聞きすると必ず出てくる単語は「生産性の向上」「売り上げと利益の向上」。「聞く営業」がこの重要な答えとなる。そのポイントを説明する。

年間1億円の販売目標を持った営業が、予算達成のためにどんな活動が必要かを二つのケ−スで設定してみた。2500万円の案件を4件成功するAパタ−ンと、100万の案件を100件こなすBパタ−ン。どちらが良いのだろう。

SPINの研修時に、私はよく次の質問をする。「2500万円の案件に必要な営業工数を100とすれば、100万円の案件での営業工数は皆さんの体験上どのくらいですか」。その答えは少ない人で50、多い人は90。平均すると70くらいになる。決して2500:100=100:4の計算で得られる4ではないことを、営業経験者は体験的に知っている。小さな案件でも営業として必要な活動量は大きな案件と大差ない。70の工数を前提に生産性を比べると、何と18倍の違いとなる。
自社の営業スタイルがBパタ−ンばかりの会社がAパタ−ンに変身したら、営業の生産性は実に18倍に膨れ上がる。トップがこの数字を見たら絶対Aパターンにシフトさせる。営業個人から見ても、Bパタ−ンでは毎日毎日、汗水流し休日返上で数字を積み重ねせねばならない。それが、Aパタ−ンなら18分の1の工数でよいわけだから、1年のうち1ヶ月弱働けば、後の11ヶ月は遊んでいてもBと同じ成果は達成できることになる。

競合に勝つための強い営業は「聞く営業」

そこで私は再度、受講生に質問する。「では皆さん、これだけの生産性に違いがあるのに、なぜBパタ−ンの案件を追うのですか」。受講生の答えは「Aパタ−ンは競合が厳しいから自信がない。Bパタ−ンなら競合が少ないので自分でも成約できそうだから」。つまり営業の自信のなさが安易な方向に流れる理由となっている。もちろん予算達成のフォロ−が毎月厳しいため、目標達成のためには100万円の案件も追わざるを得ないケ−スは多い。

この問題を顧客の側に立って考えてみよう。顧客にとって100万円の案件の場合は、導入が失敗しても自分(もしくは会社)のリスクは小さい。だから値段さえ合えば誰からでも買う。しかし2500万円の案件になると失敗は許されないので、顧客は売り手を吟味する。
となると、信頼できる売り手(この場合、重要なのは個人名であって会社名の比重は少ない)を選択して買う。小さな案件は商品ベ−スの商談であり、大きな案件は人と人との信頼ベ−スの商談となる。 これまで説明してきたように信頼される営業は「顧客の課題や問題点を聞き、その解決案を提案する人」である。つまりSPINを身につけた営業は、し烈な競合のなかで、大型・複雑案件に勝ち、大きな業績で会社に貢献することになる。

SPIN導入のキ−ポイント

当社はこれまで数多くの企業にSPIN研修を提供してきたが、本当に社内に定着するかどうかのポイントをまとめてみる。

(1)管理職がしっかりSPINを習得すること

SPINを最前線の営業職だけに教育しても効果はあまり期待できない。受講者が2日間の標準セミナ−に参加し大いに感ずるところがあり「明日からこのスタイルで頑張るぞ」と思っても、翌日職場に戻ってSPINとは逆の指示を上司から受けては教育の価値は全くない。やはり上司(特にトップ・マネジメントの皆様)も、SPINの考えを理解し同じ考えで指導をお願いしたい。

(2)共通言語として

SPINには九つのSPIN用語がある。これを共通言語として使っていただきたい。上司と営業の会話は「今日はどうだった」「ええ、いつもの通りです」「その調子でガンバレ」のような漠然とした会話ではだめ。「今日どうだった」「ええ、今日は情シスの○○課長との面談で問題質問をしたところ、今のシステムの問題点はレスポンスが悪いことで、エンドユ−ザ−からクレ−ムが出ているとのことです。
次回に、この改善策を提案しようと思います」「それもよいが、提案の前に営業部の責任者に会い、どんな状況下でレスポンスの遅さが仕事に悪影響を及ぼしているか確認した方がいいな」「はい、分かりました」といった具体的な会話にならなければいけない。
そのための共通言語としてSPINを使うのだ。 SE(システム・エンジニア)職も、SPINを理解すると営業に感謝されるSEに変身する。SE職はどうしても技術論に走りがちになる。特にSEらが作成した提案書はFABのF(商品の特徴)中心になりがちだが、提案書には絶対にB(利益)が記述されねばならない。

このような提案書が増えれば当然、受注確立は飛躍的に向上する。 製品開発部門におけるSPINの必要性は前号で書いたとおりである。ハスウェイト社は「SPIN strategy」と呼んでいるが、SPINは戦略の一環として位置付けられるべきだろう。

売り上げと利益向上には

Webで売れる小額・単純な商品のプロモ−ション策は、商品名と会社名を向上させるのが一番だ。しかし、「ソフト」「サ−ビス」「ソリュ−ション」に代表される複雑商品の拡販は「SPIN型営業」「問題解決型営業」を何人抱えているかで決まる。さらに、これらの商品は利益率が高いので自社の利益確保にもこの図式が当てはまる。もちろん商品戦略も重要だが、商品の差別化が難しくなった今の時代では営業力の向上が最重要課題の一つと言っても過言ではない。
しかし営業職ほど自分のスキル向上に投資をしない人種はいない。営業職の皆さん、これまで自分の営業技術向上のために自前で何冊の本を買いましたか?

SEに代表される技術者は自身の知識や技術向上のため、月に2〜3冊の専門誌を読むのが当たり前だし、MCP(マイクロソフトの技術認定資格の一つ)などの資格を取得し自身のステイタスを上げている。企業も新卒、中途を問わず採用には多大な資金をつぎ込むが、そのスキルアップの予算は小さい。それは、今までの教育内容は一般教養講座的要素が多かったためと思われる。
経済、テクノロジ−、ユ−ザ−の価値観など最も不透明で難しい今の時代こそ、会社は社員の、社員は自分の、実践的スキル向上にそれぞれが投資すべきではないだろうか。 7回にわたり「サ−ビスを売る営業」の手法としてSPINを紹介してきた。話を面白くするために多少過激な単語や表現を使った点はご容赦ください。

私の部所はSPINを中核とした社員教育をお届けしておりますが、皆様のお役に立てる様活動しておりますので営業教育(マ−ケティング要員教育)に興味のある方、或いは記事内容ご質問がある方ば私のメ−ルアドレスにメ−ルをお送り下さい。
最後に記事内容で多くのアドバイスをいただきました(株)古淵ビジネス総研の古淵社長と、この連載にご協力いただきました「日経システムプロバイダ−」誌の皆様に厚く御礼申し上げます。

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