株式会社スピンラボ:事実を確認する「状況質問」の落とし穴

「自分は自分の会社に関して、こんなに詳しく知っているんだ」と得意げに話してくれる。これを使い分けると商談は大幅に向上する。

雑誌掲載記事

第3回「事実を確認する「状況質問」の落とし穴」

今回はSPINの質問パターンの一つである状況質問(Situation Questions)について解説する。質問内容で、顧客は優秀な営業と未熟な営業を見分けることにもなる。

サ−ビスのような複雑商品の販売では、売り手は顧客の発言に耳を傾けるのが成功のポイントだと前回説明した。とはいっても、ただ聞いていれば良いということではない。自分の商品を購入してもらえるよう商談を進めるには、顧客に大いに語ってもらう必要がある。だからこそ、売り手は上手な質問をして商談をリ−ドしなければならないのだ。 SPINが登場するまでの質問方法は、拡大質問と限定質問の二つだった。しかし、質問の数と商談成立のデ−タ的な立証は残念ながらされなかった。SPINを創出したハスウェイト社もこの調査を試みたが、両者の因果関係は見いだせなかった。そこで視点を変え、大型・複雑商談で成功している営業がどんな質問をしているのかを調査・分析し体系化した結果が四つの質問SPINになった。 四つの質問のうち事実を確認する質問が状況質問。残り三つは相手の考え方を知る質問になる。

プロの顧客は状況質問で営業を見分ける

状況質問とは「顧客の状況・環境についての客観的事実を聞く質問」である。代表的な質問項目としては(1)御社の社員数は何名ですか、(2)御社の取扱商品はどんなものですか、(3)今、お使いのシステムはいつ導入なさいましたか、(4)それは買い取りですか、リ−スですか、(5)ご担当は何人いらっしゃいますか、などである。
このように新規顧客の訪問時や初めての面談相手の場合、売り手は共通した状況質問をして顧客の現状をつかもうとする。自分が売りたい商品が売れる可能性を探るために、事実を知りたいのは当然のこと。顧客の状況が把握できなければ商談が進まないからだ。しかし、質問の技術からすると、いちばん簡単な質問であるため、質問回数が多くなりがちになる。
そこに商談成功への大きな落とし穴がある。 売り手は自分の商品販売を成功させたいのだから知りたい点を質問する。だが、売り手側の論理。顧客の立場に立って、この状況質問を考えると、顧客のところには毎日嫌になるくらいの営業が訪問してくる。そして、どの営業も口をそろえたように同じ質問をする。

●どこのメ−カ−のシステムですか
●システムの規模はどれくらいですか
●いつ導入されましたか
●失礼ですが、投資金額は

顧客はその都度うんざりしながら同じ答えをしなくてはいけない。実はここが恐いことにつながるのだ。顧客も営業対応を繰り返しているうちに経験法則が身に付いてくる。つまり顧客は状況質問のやり取りを通じ、優秀な営業と未熟な営業を無意識に区別し始める。当然、優秀と判断した営業とは商談を進めていくが、未熟と思われてしまった営業には次のアポイントも取らせないことになる。

質問のキーポイントは

状況質問の注意事項をいかにまとめた。
(1)状況質問は商談の初期に多く使う 高額・複雑商談(コンプレックス・セ−ルス)は時間がかかるが、この質問は商談の初期に集中する。商談が煮詰まってきたタイミングに状況質問を多用する営業は顧客の信頼を失ってしまう。このごに及んでこの営業は何が知りたいのだろう、ということになるからだ。
(2)状況質問は少ない方が良い 状況質問は、商談の成否に直接関係がない。つまり質問数は少ない方が良い。未熟な営業はベテラン営業より状況質問の数が多いことは統計的にも立証されている。よって質問はポイントを絞ってすること。
絞り方は自分の販売したい商品に関連した部分にすることだ。状況質問に関連した会話では、顧客に何のメリットもない。つまり顧客にとっては自分の知っていることの説明を受けるだけになれば、この時間はムダな時間でしかないからである。 だからこそ、事前に調べられることは事前に調べることが肝要だ。

ホ−ムペ−ジは情報の宝庫

筆者は30年前にメインフレームの営業として社会人1年生をスタ−トした。当時から「事前に調べられる」ことの重要性を、その会社は徹底していたので定着していた。上司や先輩からもそう指導された。

例えば
(1)初回訪問時は少し早めに顧客先に到着し受付で「会社概要」をもらい面談スタ−トの前に目をとおしておくこと
(2)上場会社の場合は、政府刊行物センタ−に行って有価証券報告書を買い、それを精読して顧客の実態を頭に入れておくこと

などだ。 昔はこんな努力をしたものだが、今は本当に便利になった。ホ−ム・ペ−ジはこの事前情報収集には最高のツ−ルである。是非活用してほしい。
ある会社でSPINの研修時に、このホ−ム・ペ−ジの話をした。すると受講者の一人から「自分の担当客先のホ−ム・ペ−ジを調べていたら上司に叱られたがどうしたら良いでしょうか」といった質問を受けた。「上司の方は何と言ったのですか」と聞いて見ると「パソコンを見て遊んでいる暇があったら客先回りをして来いと言われました。」という。インストラクタ−としては本当に困った。多分この上司は複雑商談の経験がなかったのでしょう。

状況質問での高等技術を紹介

複雑商談では多くの人と面談しないと商談が進展しない。担当者とばかり会っても商談のテンポは遅くなるので、優秀な営業はできるだけ上位の方に会おうとする。つまり、売り手は様々なポジションの人と面談することになる。 その高等技術とは何か。上位の方との面談では、状況質問は最小限に抑えるか、もしくは使わないことだ。
決裁権限のない人との面談時には多くの状況質問をしてあらゆる角度の情報を収集する。 役員クラスの方との面談時に「御社の社員は何名でしょうか」と言っただけで、その営業の将来はないだろう。決裁権限のない若い人は売り手からかなり突っ込んだ質問を受けると「自分は自分の会社に関して、こんなに詳しく知っているんだ」と得意げに教えてくれる。これを使い分けると商談進展は大幅に向上する。 次回はSPINのPの問題質問(Problem Questions)を紹介する。

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