株式会社スピンラボ:複雑な商品が新しい営業スキルを求める

自らは語らずに顧客に語らせる

雑誌掲載記事

第1回「複雑な商品が新しい営業スキルを求める」

商品の売り方がますます複雑化してきた。
自社商品のみを単純に売り込む方法はもう通用しない。SPINと呼ばれる新しい営業手法を説明しながら、これからの営業スキルに必要なものを探ってみる。

昨今、「顧客満足(Customer Satisfaction)の向上」とか「顧客のニ−ズに合わせたマ−ケティングが企業サバイバルの鍵」などといった声をよく聞く。企業は顧客満足度向上のために、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を実施し「組織のフラット化」や「情報の一元管理」「情報の共有化」の改革に取り組んでいる。営業活動の効率化を図るために、SFA(セールス・フォース・オートメーション)の実現に着手した企業も増えてきた。

経営改善が顧客に伝わっているのか

しかし、企業がこうしたばく大な情報化投資をして会社の改善を図っている姿勢は、客先に伝わっているだろうか。顧客がその姿勢を理解するのは、自社の担当営業を通じてが一番大きい。この観点から自社の営業担当者を分析すると、本当に顧客の声に耳を傾けていると言えるだろうか?

顧客の抱えている課題に対し、改善提案をしているのだろうか?自社の営業担当者は「売らんかな」の姿勢で顧客に接しているのではないか? こうした点はどの業界にも共通した最近の傾向だ。しかも、売りたい商品の販売方法が難しくなってきている。IT(情報技術)業界の傾向を見れば、単純な商品(主にハ−ドの単品販売)では利益が得られない。そこでソフトやサ−ビス、保守、それらを組み合わせたSI(システム・インテグレ−ション)など、複雑な商品にシフトせざるを得ない状況にある。

eビジネスの広がりが商品を二極分化する

一方、eビジネスの爆発的な普及の結果、商品が二極分化しつつある(図1)。特に、インターネッを活用したWeb販売に移行すれば、販売コストが大幅に節約できることもあって、各企業はこのチャネル開拓に必死である。そのチャネル経由でどんな商品が売れるか、試行錯誤を繰り返しながらWeb販売に移行しようとしている。 その一方で、Web販売では絶対売れない商品が明確になってくる。
それは人と人が面談しなければ売れない商品である。Web販売で売れる商品は単純な物が多く、人と人の面談が必須の商品は複雑な要素をもった物とも言い換えられる。 ところが、企業に大きな利益を生むのは複雑な商品である。しかも、複雑な商品の販売の成功と失敗は、人数ではなく営業担当者の質で決まる。事実、ソフトやサ−ビス、ソリュ−ションなどの複雑な商品を販売するITサービス業界にあっては、優秀な営業職を多く抱える企業のみが業績を伸ばしている。

では複雑な要素をもっている商品の販売にはどんな営業スキルが必要だろうか。優秀な営業担当者とはどんな営業スタイルの人だろうか。顧客から「パートナー」と見られる営業は、どんなスタイルで顧客と接しているか。 図2を見てほしい。
ある営業担当の訪問例
「この訪問は成功か、失敗か」と質問すると、大半の方は失敗と判断するだろう。では、どこを直せばよいのか。 この営業担当者は自分の売りたい商品にしか目がいっていない。その結果、顧客の気持ちや立場を一切考慮せずに自社製品の説明だけをしようとしている。こういったタイプの営業は顧客から見ると「出入りの業者」でしかない。顧客から「パートナー」と認められる営業は決して、このような商談はしない。

2万3000人の営業担当者の行動を分析

つまり営業担当者はますます高い能力と技術が求められる時代に入っている。 今回の連載では、顧客のニーズを理解し、顧客が抱える問題点の改善を提案し、顧客と真の「Win-Win」の関係を築き維持していくための営業技法を紹介する。簡単に言えば顧客との接し方である。具体的には「SPIN」という名前で知られている質問技法を説明する。 SPINの販売戦略は、米ハスウェイトの創始者であるニール・ラッカム氏が考え出した。過去に販売技術に関する書物は1000冊超あるが、内容はクロージング技法や反論処理、つまり応酬話法が中心だ。残念なことに、どの営業手法も研修後の効果をトレースしていない。 これに対しSPINは、まず世界を代表する20社のトップ・セールスマン6000人の行動調査を実施し、1人ひとりとの面談と業績の関連を調べた。日本企業もこの調査対象に入っていた。調査はその後、12年間続きなんと2万3000人の営業担当者の行動が調査・分析され今日に至っている。その結果判明したことは、応酬話法が効果を表すのは、商品の単価が小さく商品特性が単純なもの(Simple Sales)に限られること。高額かつ複雑な商品(Complex Sales)の販売では全く別のスタイルが効果的と判明した。この複雑な商品を販売する手法をラッカム氏は「SPIN」と命名した。 SPINのキーポイントは次の3点である。

(1)商談の流れは顧客中心。つまり顧客の購入心理を理解して商談を進めなければならない
(2)売り手が使う質問を四つに分類し、これをうまく使い分けるのが効果的
(3)商品の説明は商談の後半になってからする

自ら語らず、顧客に語らせろ

では「優秀な営業ってどんな人でしょう」。こう尋ねると多くの人からは「よくしゃべる人」「能弁な人」「押しが強い人」などといった答えが返ってくる。しかし、大型で複雑な商談になると、売り手側は聞き役に回らなければならない。 その理由は、人間の行動特性からも次のような点が考えられる。

(1)人は聞くことよりも、話すことのほうが好き。だから楽しい役回りを顧客にしていただくのは当然の行為である
(2)楽しい役をした顧客は、その相手をした売り手の営業と、また会いたいと思う。つまり商談が親展する
(3)人は他人から説得されるより、自分の言葉に説得されるほうが好き
(4)説明してもらったことはすぐに忘れるが、自分で発言したことは忘れない

余談だが、一杯飲み屋で上司と部下が話をしているとき、いかに上司が上司権限でこの楽しい話し手の役に徹しているか、がよく分かる。 次回から、SPINの詳細な内容を説明していく。

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